我家から散歩がてらに気軽に歩いて行ける丘陵地帯には大きな谷があり、そこには数キロ間隔にダムがいくつかあります。谷といっても雨の少ない地域です。普段は水の流れなどは皆無、冬にまとまった雨が降れば最上部の大きな人工湖のダムが放水を開始して初めて小川が出現します。その谷にあるダムは全て構造の簡単なアースダムです。
アースダムはその名のとおり土を積み上げて造るダムです。子供が砂浜や泥遊びでつくるダムと基本的に同じです。近郊にある最大のダムも周りの土を切り崩して積み上げて完成したアースダムです。下流の小規模ダムなどでは盛り土がむき出しになっていて、水による浸食があらわで素人目には少し不安になってしまいます。建設当初は農業用水としての利用が大きな目的でした。今日では都市化が進み今では洪水対策とリクリエーション利用がその目的となっています。
ダム建設の目的として私たちの頭に真っ先に浮かぶのが水力発電です。それはあの有名な黒四ダムのせいかもしれません。戦後の復興期に深刻な電力不足だった関西地方へ十分な電力供給を果たすために建設された水力発電専用の巨大ダムです。黒四ダムに比べれば土砂を盛っただけの貧相なアースダムが見劣りすのは当然です。ところが小規模なアースダムでさえ発電目的で建設され利用されているダムも幾つかあるとのことです。脱炭素や温暖化防止で再生可能エネルギーの開発が急がれていますが日本では水力発電の有益性をもっと見直す必要があるようです。
ダム開発の専門家によると日本に今あるダムをほんの少し嵩上げするだけで太陽光や風力よりはるかに効率的に大量の再生可能エネルギーを生み出すことができるそうです。豊富な降雨量と降雪量、急峻な国土で日本は世界でも稀有の水力発電能力を持つ国です。いつでも大雨が降れば洪水になってしまうアメリカの広大な平地とは全く異なります。広大な平地は水をこぼした平らなテーブルと同じで、水が流れ去ってしまうことはないのです。季節を問わぬ豊富な水量、淀みなく流れることのできる急峻な地形の日本で水力発電をもっと活用しない手はありません。
かつては自然破壊の根源とか税金の無駄使いといわれたダムです。各地で反対運動もたくさん起きました。それでも全国の野山や湖沼地帯を丸裸にして設置されるメガソーラーや国土防衛を脅かし基地周りに乱立する風力発電の風車などに比べたら日本の水力発電はより効率的に安全に、しかも少ない予算で再生可能エネルギーが得られるとのことです。大きな犠牲を伴う再生可能エネルギーへの転換ですが、もう一度何ができるか再考する必要があるようです。小規模なアースダムの水力発電でも非効率なメガソーラーをはるかに超える再生可能エネルギーが調達できるのかもしれません。