夏にキャンプに行こうと誘うと虫が出るからいやだという女性がいます。部屋の中に入ってきた虫が珍しいので手に拾い上げたら、男性の友人から「よく触れるね」などといわれたこともあります。男女を問わず昆虫が苦手な人が多いようです。子どもたちが好きなカブトやクワガタ以外は嫌われることの多い昆虫ですがもっと興味を持って怖がらずに優しく接してもらえたらと思います。
日本に比べたら昆虫の種類が驚くほど少ない南カリフォルニアなのですが、種類が少ないだけによく目立ち、より親しみ深くなってくるものです。家の近くの自然を歩くと必ず遭遇するのが写真の昆虫です。一般にスティンクビートルと呼ばれるピナケートビートルです。真っ黒でゴキブリのような様相でけして可愛いとかキレイとかいう虫ではありませんが、いつでも長い足で地面をヒョコヒョコ歩いているので見かけるとなぜか親しみを覚えて安心してしまいます。
親しみを感じてしまうのはきっと私だけかもしれません。それもそのはず、この昆虫は危険を感じると逆立ちしてお尻を突き上げ臭い液体を噴射するのです。スティンクとは「臭い」という意味でスティンクビートルの名はそこからです。逆立ちの様子はかなり威嚇的です。だから、この虫に遭遇すると誰もが少し遠巻きに距離をおいてやり過ごすことになります。ところが、ちょっと近寄って観察してみると面白いことを発見してしまいます。
このような甲虫はふつう鞘翅(サヤバネ)の下に飛ぶために使う翅を折り畳んでいて、実際に飛翔するときは鞘翅を開いて飛行します。スティンクビートルの場合はよく見ると鞘翅がくっついてしまっていて、左右に開かないので飛ぶことができません。だからいつでも地面をヒョコヒョコと歩いているのです。開くことのない鞘翅は厳しい砂漠の環境で水分を保持するのに役立っているそうです。翅がくっついてしまった虫はあまり見なれていないし、さらに色が黒いのでそののっぺりした背中が少しブキミに感じてしまう人が多いようです。
子供のときに毛虫を採取してかぶれたことがあります。どうやらドクガなどの幼虫だったようでひどい目に会いました。南米などには人の体に卵を産みつけ孵化する昆虫もいるようです。頭皮の下から数センチのイモムシが取り出される映像を見たことがあります。昆虫が大嫌いな人の気持ちもよくわかります。最近ではスズメバチが北米に侵入してきてミツバチを食い荒らすということで問題になっています。
確かに迷惑この上ない昆虫も多いのですが、醜い真っ黒なスティンクビートルが飛ぶこともできずにヒョコヒョコと歩いているのを見るとやはりなぜか親しみを感じてしまいます。色や形にとらわれると取っ付きにくい虫たちですが、よく観察してみるとあなたにも親近感がわいてくるかもしれませんよ。