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東京オリンピックの弊害

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伝統的ロッククライミング

 

 

延期になった東京オリンピックですが新種目として注目を浴びているのがスポーツクライミングです。来年開催されればクライミングのさらなる普及に大きな貢献をすることになるでしょう。クライミングを楽しむ人が増え、関係業界がうるおい、良い事づくしのようです。その反面、クライミング(登山)が育んできた伝統的な価値が壊されてくるのではないかという懸念もあります。

 

スポーツクライミングは安全の環境を整え、難易度の高い課題に挑戦するスポーツです。一方、伝統的クライミング(トラッドクライミング)は登山の冒険的精神を尊重して、古典的スタイルを踏襲するものです。そこには初登者への尊重や自然環境の保護など哲学的概念まで含まれることもあります。同じ登山活動の一部であるクライミングですが今では異なった価値観を持って同じフィールドでプレイしています。

 

野外のスポーツクライミングで不可欠なのが埋め込みボルトです。多くの場合、ルートの終了点からロープでぶら下がり電動ドリルで岩に穴をあけ半永久的な埋め込みボルトを必要数設置します。下から登りながらすでに設置されたボルトに次々とロープを掛けて安全を確保することになります。伝統的なクライミングでは岩にある自然の割れ目を自分で探し、写真のようなナッツやカムなどの回収可能な道具を割れ目にはめ込んで自分自身で安全を確保します。他人には頼らず自らルートを切り開いていく醍醐味があります。しかし設置には手間がかかるし、困難なルートでは墜落の危険が倍増します。

 

 少なくともこちらアメリカでは、今ではほとんどの人がジムなどでクライミングを始めます。スポーツクライミングしか知らない新しいクライミング世代が増えることによって、野外の伝統的なエリアでも安易な安全性や利便性の追求が当たり前になってしまう可能性があります。伝統的エリアがクライミングジム化してしまう懸念です。実際に、豊富なルート数や手軽なアプローチで人気のあるジョシュア・ツリー国立公園などでは不必要な懸垂下降支点や登れずに放置されたスポーツルートが目立つようになってきました。以前は歩いて降りたルートの終了点に便利に懸垂下降ができるように不必要な埋め込みボルトが設置されたりしています。上部からロープを垂らして長時間ルートを独占する手法も明らかに倫理違反です。

 

幸いなことにクライミングエリアに恵まれている南カリフォルニアでは近年スポーツエリアが独立して発展してきました。そのため、それぞれのクライミングスタイルに合わせて登りに行く場所を選ぶことができます。ジョシュア・ツリーのように異なったスタイルが混在したエリアは例外でしょう。来年開催されるであろうオリンピックを見てクライミングを始める若い人たちには伝統的クライミングの醍醐味も忘れずに体験して、他のスポーツにはない奥行きの深さに触れてもらいたいものです。