アウトドアジジ

2分で読める? アウトドアのアクティビティ、道具、自然に関するブログです。

友達がフレンド

お餞別

 

山登りに使う様々の道具は昔からけして安価なものではなかったのですが、その中でもクライミングに使うカム類はとても高価です。どうしようも無いのがその使い道でクライミングにしか使えないのです。クライミングをやめてしまえばただの鉄クズ(アルミですけど)で、多くの山道具が普段の生活でも役に立つのと大違いです。そういう無意味で高価なフレンドというカムをセットで私が海外に出ていく時に餞別としてくれた友人がいました。

 

旅立つ人にわたす餞別というのは贐(はなむけ)のことで、むかし旅人が使う馬の鼻を旅先の方角に向け道中の安全を願ったことが発端だそうです。当時の感覚で餞別は1000円や2000円程度が妥当で、店先で買おうか買うまいか悩んでいた私にセットで何万円もするクライミングカムを餞別として買い与えてくれたのでした。「今月は金がないから山行はキャンセル」と時々同行を断る金欠病のその友人にとっては大きな痛手にあったに違いありません。「向こうでも登るんだろ」といって嬉しい贐を差し出してくれたのでした。

 

フレンドはクライミングカムの元祖で、その発明は正にノーベル賞クラスです。ヨセミテのエリートクライマーであった開発者は当初そのプロトタイプを上着の下に隠し持って最難ルートの開拓に挑んだといわれています。滑り止めのチョークでさえ問題視され倫理の厳しかった当時のクライミングシーンでは、容易くプロテクションがとれるクライミングカムは岩登りの冒険心を脅かし、その魅力を半減させる邪道な道具だと多くの人が考えていました。

 

とはいえ、人々は一度その道具を使ってみればその便利さに驚愕し即座に購入に踏み切ってしまうのでした。「一番信用できるのはやっぱりボルトだよね」今では危なくて使えないリングボルトでさえ最大の信用を得ていた当時、岩の割れ目にはめ込むだけのナッツ類は日本のぼろぼろの岩場に受け入れられることはありませんでした。ところがクライミングカムはその利便性、多様性であっという間に日本のクライミングシーンに普及してしまったのでした。

 

今では多くのクライミングメーカーが様々なカムを製造販売していて、伝統的なクライミングに挑むための必携の道具となっています。友人が餞別としてくれたクライミングカムは無くしたり、回収不能となったりして数が減ってしまいましたが、未だに現役として使用が可能です。カムを支えるシャフトは棒状のリジット式で、ワイヤー式が一般的になった今ではレトロ感は拭いきれませんがその有用性は健在です。

 

せっかく友人が泣きなしの金をはたいて餞別としてくれたカムですが、クライミングに行く機会もそれほど多くなく使い倒すほどの使用はできませんでした。久しぶりに道具箱を開けたりしてみればそういう懐かしい思い出が蘇ってくるのでした。

 

 

*だんだんネタが無くなって重複してしまいましたが、以前にもこんなのを上げていました。

midoriiruka.hatenablog.com