アウトドアジジ

2分で読める? アウトドアのアクティビティ、道具、自然に関するブログです。

革靴

f:id:midoriiruka:20210327065322j:plain

古道具 その

 

ちょっと以前の話になりますが、スキー場のリフト券売り場に並んでいた時に話しかけられたことがあります。「そのスキーはいったい何年使っているんだい?」手にしていたのは写真のようなクラシックなテレマークスキーではなくて、最新のビンディングが付いた太めのテレマークスキーでした。最新とはいえヒールピースがなくてぶらぶら揺れているテレマークビンディングを見て大昔の革靴で滑るスキーと勘違いしたのでしょう。

 

踵を固定せずに滑るテレマークスキーにプラスチックのスキーブーツが使われるようになったのはもう20年は昔のことですが、今でも昔ながらの革製のスキーブーツで細いスキー板を操りながら雪山を楽しむ愛好家も少なくはありません。革靴ではゲレンデの高速カービングターンなどはとても望めませんが、雪山を歩いて、登って、そのまま滑るにはやはり最強の道具なのです。プラブーツの素材や成形のテクノロジーがどんなに進んでも足によく馴染んだ革靴のフィット感に追いつけることはないでしょう。

 

しなやかさが要求される登山靴やハイキングシューズではなおさらです。かつて一斉を風靡したプラスチックの登山靴は影をひそめ、皮革やそれに近い合皮を使用したものが再び主流となっています。とはいっても足が直接接する靴のライニングにはナイロンなどの化学繊維が使用されていることがほとんどです。防水性を高めるために使用されるゴアテックスなどのブーティーには通気性を高めるために化繊のライニングが一般的で、そのため靴の中で足が滑りやすく、革製ライニングのようにしっかりとしなやかに足をホールドしてくれません。今でも上級グレードの車のステアリングに革が巻きつけられているのはそれと同じ理由からです。

 

自然素材の革靴は良い事ずくめのようですが防水性や重量が大きな弱点です。昔の冬山では凍らないように登山靴を抱いて寝ました。ナイロンアッパーのゴア登山靴が登場したときにはその軽さに驚いたものです。革靴にはメンテの手間もあり、手入れを怠るとすぐに最悪の状態になってしまいます。そういう欠点とともに、昔ながらの手縫いの革靴を見かけなくなった理由に製造コストの削減があります。熟練した職人が各パーツを丁寧に縫い上げていくよりは、ゴアテックスのブーティーを買い入れ接着剤でそれぞれのパーツを張り合わせていく方が安価に高性能の靴を製造できます。消費者もより安いものを求めるので、耐久性やフィット感などちょっとした不具合には目をつぶってしまいます。

 

踵の上がるテレマークスキーはあまり頻繁には見かけないので「大丈夫ですか、スキーが壊れていますよ」などとゲレンデで注意されたテレマーカーも多いと思います。最近は新しいテレマークビンディングシステムも広まり、写真のような昔ながらのケーブルビンディングが少なくなったのでなおさらです。若い人が革靴で細いスキーなどに乗っていたら変人扱いされてしまいそうです。スキー靴も登山靴も、手頃な価格や便利な機能にだけとらわれることなく、しっかりと伝統的な道具にも愛着を持って使い続けていきたいものです。願わくばそういう道具が細々でもかまわないのでずっと作り続けられればと思っています。