アウトドアジジ

2分で読める? アウトドアのアクティビティ、道具、自然に関するブログです。

西上州叶山

 

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桃源郷の廃屋


西上州の山々は奇怪な岩峰と深い藪で関東周辺に住む山好きの人たちには通好み山域として知られています。奥多摩や丹沢、奥武蔵や奥秩父のような人気はなく、名が知れているのは石灰岩のクライミングで有名な二子山くらいでしょう。その隣にあるのが叶山で、巨大な地球儀のような大石が挟まった滝が珍しくて何十年も昔の学生時代、秋も終わりが近づいた季節に登りに行ったことがあります。

 

若い頃からズボラな私は山行記録はほとんどつけていないので、残っているのは数枚の写真だけです。牢口ルンゼと呼ばれるその沢の遡行が困難だったのか容易だったのか、アプローチを含めて記憶がまったく飛んでいて、こういう山行もかなり珍しいものです。ただ鮮明に思い出すのは登り切った先にはちょっとした平地が広がり、そこには廃屋があって中に入ると古いカレンダーや雑誌、鍋や食器などが残されていて、こんな山奥につい最近まで下界で見られるような普通の家に人が暮らしていたことにたいへん驚いたのでした。

 

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叶後から眺める牢口ルンゼ



狭くて暗い神流川の谷底から見上げる急峻な藪山の奥に、人が密かに暮らしていた思うと平家の落人伝説もまんざら嘘ではないように感じてしまいます。戦後しばらくはそこで生活を続けていて、炭焼きや養蚕を営みながら畑を耕し暮らしていたそうです。山奥の一軒家というのは普通、町から続く街道のどん詰まり付近に点在するものです。ところが叶後と呼ばれたこの平地に到達するには何時間も山道を辿ってこなければなりません。もちろん牢口ルンゼは歩いて登ってくるわけにはいきません。むしろ高い岩壁に挟まれた牢口の暗い切れ込みを叶後のこの平地から眺めれば、この世の終わりを予感する不気味な景観に驚愕してしまうのです。

 

叶後の景観自体は小川も流れる明るい桃源郷なので、それなら行ってみようと思う人もいるかもしれません。残念ながら叶山は全山石灰岩秩父太平洋セメントの採掘が進み山頂は平らに削られ今は見る影もなく、叶後も採掘現場となってしまいました。露天掘りで採掘された石灰岩は細かく砕かれて、何と23キロにも及ぶ地下ベルトコンベアで秩父市まで運ばれるそうです。石灰採掘で有名な武甲山の場合は少なからず山頂も残され登山を楽しめますが、叶山はもう山自体が消滅しようとしています。秋の落ち葉に埋もれ人里離れた桃源郷に残された一軒の廃屋、再訪はもうかないません。

 

二子山西峰、叶後 廃屋の写真が見られます

https://www.enaa.or.jp/GEC/nec/html/nyokai/sk07-8.pdf 地下ベルトコンベアの様子

山岳ガイドの資質

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プロガイド廣瀬憲文


山岳ガイドの草分け的存在で長年にわたって活動を続けてきた廣瀬憲文さんがこの夏、穂高岳でお亡くなりになりました。かつては涸沢テント村の村長さんとして親しまれ、半世紀は通ったと思われる穂高岳での事故でした。私自身はもう何十年もお会いしていなくて連絡も途絶えていましたが、70歳になってもお元気にお客さんを案内していたようです。 このブログを御覧になっている山好きの方々にもひょっとしたら一緒に山へ出かけたことがある人もいるかもしれません。

 

昔は山のガイドというと輝かしい登攀記録を持った定職のないアルピニストが生活のための日銭稼ぎに活動していた印象がありました。現在ではマーケットの拡大とともに日本山岳ガイド協会が設立され安心して野外活動のガイドが利用できるようになり、専門職としての地位も確立されてきたようです。協会が認めるガイド資格も複数あって自然ガイド、登山ガイド、山岳ガイド、スキーやフリークライミングなどと活動範囲が異なるそれぞれのエキスパートを承認しています。

 

知識や技術、経歴が重視されがちなガイド業ですが、資質として要求されるのはその人の人間性や人徳です。危険な山を案内して安全に下山してくるためには経験に裏付けされた高い技術や知識が必要なのはいうまでもありませんが、それ以上にクライアントが安心して楽しくコミュニケーションをとれる能力が必須です。人が好きで奉仕ができる、いつでも楽しく会話を進めることができて、必要な時には強い指導力を発揮できる能力です。そういった能力はまさに生まれつきの性格で多少の努力や訓練で修得できるものではないでしょう。廣瀬ガイドはそういう天性の素晴らしい能力で多くのクライアントを山へ案内してきました。

 

「誰でも必ず登れるようになります」というのが廣瀬ガイドのモットーでした。岩登りを始めたばかりの初心者から、思うように体が動かせなくなった高齢者まで、楽しく練習を重ねれば必ず登れるようになりますと優しく勇気づけられて奮起した人も多いことでしょう。ネットでは韓国インスボンでの廣瀬氏のプロガイドとしての逸話がありました。私も何十年も昔にご一緒して楽しい時間を過ごした思い出があります。ロッククライミングで有名な小川山でも、その黎明期に大活躍をしていて彼の名前のついた名ルートもあります。

 

その昔、廣瀬ガイドが大活躍を始めた頃、欧州アルプスやヒマラヤの輝かしい登攀記録を持つクライマー達から「大したところは登っていない」と見下され妬まれたたこともあったようです。今では、そういった人たちこそ廣瀬ガイドの人気の秘密を探って欲しいものです。山が好きで、低山歩きから海外登山までガイド職を目指している人がいるなら知識や技術ばかりでない、他の何かで何ができるか確認してみることも大切だと思います。山岳ガイド業は人と自然を相手にしたやりがいのある仕事であることは昔も今も変わりません。(表題写真、中央の赤パンツが廣瀬ガイドです)

 

plaza.rakuten.co.jphttps://plaza.rakuten.co.jp/lilyko8701/diary/202108170000/

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midoriiruka.hatenablog.com

地中海性気候

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雨が好き?


最近は大雨の連続ですが、以前には線状降水帯などという気象用語はまったく耳にすることはありませんでした。気候変動によって顕著になった気象現象のようで、ただでも雨の多い日本でさらに大雨をもたらす危険な状況を表す言葉として定着してしまったようです。日本に暮らすほとんどの人が雨に嫌気がさすのは当たり前なのでしょうが、冬の間のほんの一時期をのぞいてほとんど雨の降ることのない南カリフォルニアに居るとそんな雨がほんとに恋しくなってしまうのです。

 

南カリフォルニアは世界でもごく稀な地中海性気候に属しています。地中海性気候はカリフォルニア以外に、もちろんヨーロッパの地中海沿岸と北アフリカの一部、それにチリ、オーストラリア、南アフリカの限られた狭い地域のみとなっています。夏には雨が極端に少なく乾燥し、温かい冬に少しまとまった雨が降るという日本人には羨ましい温暖な気候です。冬でも陽が照れば暖かくなるこの地域、ダウンジャケットやセーターを着込んだ人とTシャツに半ズボンの人が一緒に歩いていたりする奇妙な光景も見られます。ちなみに表題のビーチ写真は11月も下旬に撮影したものです。海に入っている人も確認できますが海水はかなり冷たいんですよ。

 

ここロサンゼルス周辺に移り住んできた日本の人たちは温暖で雨の少ない気候を誇りに思う人達が多いのですが、私自身は30年以上住んでみてやっとその退屈な気候にやっと慣れてきた状態です。毎朝、目を覚ますと相変わらずの雲ひとつない上天気、朝から眩しい太陽がギラギラしていると住み始めた頃は気が滅入ってしまいました。毎日、毎日、同じ天気がずっと続き嫌気がさしてくるのでした。もっとも、気象条件にもよりますが濃い海霧が内陸部まで上がって来るどんよりとした日もあって、こんな日は今日は涼しいかななどと喜んでいると9時くらいにはあっという間に雲が切れて強い日差しが照りつけてきます。こんな日々がだいたい3月から11月頃までは続き、まとまった雨は降らないので日本のしっとりとした雨が恋しくなってしまうのです。

 

カリフォルニアで発生する大雨の気象条件といえば、冬になるとたまに発生するパイナップル・エクスプレスが有名です。ハワイ諸島辺りからぐーんとカリフォルニアの沿岸部まで伸びる線状降水帯のようなものなのですが、偏西風の関係で最近はあまり顕著な発生は少ないようです。過去には610ミリの降水量を記録したこともあって地元の山にも雪がたくさん積り、シエラネヴァダの山でも4メートルの積雪を記録したこともありました。まあ日本の雪国に比べれば大したことはないのですけど。私のように山に積もる大雪を歓迎する人も多いのですが、山火事で不安定になった斜面の土砂が大雨で滑り出し大きな災害を発生させることもあります。

 

日本で山やキャンプを楽しむ人たちが思い出を探るときにしっかりと記憶に残っているのはその時々の季節感です。新緑や紅葉に雪景色、季節の景色が友人たちと一緒に過ごした楽しい時間を鮮明に思い起こしてくれます。そして、いつでも想い出深いのは雨の日にずぶ濡れになったり、寒い思いをした苦労です。こちらではそういう季節感はほとんどないので、あの時は春か夏か、はたまた冬だったのかと印象も薄れ、思い出もぼんやりとなってしまいます。嫌な雨も私には、確かに人生を豊かにしてくれているような気がしてなりません。

 

入山の自由

 

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日本人の道徳心


山好きグループのSNSを眺めていると「山に人が多すぎて何とかしなければなりません」という投稿を時々目にします。心無いハイカーや登山者が多く訪れてゴミが散らかり、登山道の整備などにも負担が増し自然環境の破壊が進んでいる、これからはもっとしっかりと管理をしていかなければならいという意見です。入山者数の制限が一番の対策だと考える人も多いようです。残念なのは、自然環境の保護を心配するばかりに自然を楽しむ自由を自ら捨て去ろうとしていることです。

 

私は海外在住で、こちらでは多くの地域で厳しい入山規制が行われています。日本の山はたまにスキー旅行で帰国したときに雪山を少し登るくらいで無雪季の日本の山はだいぶご無沙汰です。それでも皆さんの写真やビデオを見る限り私が学生時代によく登った40年前ほどと大きな変化があるようには思えません。当時から夏のシーズンには山は人だらけ、山小屋は超過密、互い違いに寝て知らない登山者の足が鼻先にある状態で寝たこともありました。もちろんテント場も遅く到着すればやっと見つけたひどい傾斜地に設営するのが常でした。入山規制などせずにずいぶんと長い間にわたって(たぶんこれからも)日本の山の美しさが保たれてきたのは日本人の高い道徳心によるものだと考えます。

 

道徳心、つまりモラルについても最近はひどく低下しているという人も多いです。でも考えてみてください。東京や大阪の大都市、地方都市や田舎も含めてどこへ行ってもゴミが目立つことのない国は日本だけです。地下鉄サリン事件以来、駅や街角からゴミ箱が撤去されにも関わらず街の清潔さは以前のままです。駅のトイレでも清掃員の方々が便器の中までゴム手袋で丁寧に拭き掃除をしてくださります。いくら仕事とはいえ海外では考えられません。私が通った中学校の先生は校内のどんなに小さなゴミでも生徒に強要するばかりでなく率先して自ら拾いお手本を示しました。海外では学校や職場の清掃は業者委託が当たり前です。長い伝統で育まれた日本人の高いモラルはそう簡単に低下してしまうものではありません。

 

入山規制は確かに手っ取り早く山の保全につながることでしょう。しかし、環境保全を効果的に実行するには厳しい規制が必要です。高山植物雷鳥の完璧な保護などには山小屋の営業停止をともなう入山禁止などの処置が必須です。行政による管理が不可欠となり罰則規定も設ける必要があります。逆に、規制のない所では何をして良いということになり、モラルも少しずつ低下していってしまうことになります。日本では現実的にそのような規制は無理で、多少の入山規制や入山料の徴収をしてもそれほど大きな効果が期待できるとは思えません。

 

私有地でなければ入山の自由は国民の権利です。行動の自由を束縛することはできません。環境保護に厳しい人もゴミを散らかす人も同じ権利が保証されています。国立公園法の制定で入山の自由を失った多くのアメリカ人達は行政の規制無しでは自然保護はできないと考えます。コロナ渦のロックダウンで無料開放したアメリカの国立公園はとんでもないことになってしまいました。しかし、そういう中で力を発揮したのが自主的なコミュニティの努力です。外圧的な規制が必ずしも必要でないことを証明しました。自由を守るには大きな努力が必要です。そんな努力を惜しみ安易に行政の介入を許し自らの権利を失ってしまわないようにしなけらばなりません。

  

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カリフォルニアのジョシュア・ツリー国立公園は コロナ渦で政府機関が閉鎖したときに公園を無料開放としました。ところが多くの心無い人達が訪れ公園が荒らされました。地元の街ではボランティアが協力してゴミの撤去やパトロールなどを実施しました。ビデオの中でボランティアの女性が誰かがパトロールをしたり管理をしなければならないといっています。日本でも誰かが監視していないと荒らされてしまうのでしょうか?

野生蕎麦

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カリフォルニア・バックウィート


私たちが大好きな麺類、その中でもこだわり派が特に多いのがお蕎麦です。味覚に鈍い私には細かい違いを味わうことは難しいのですが、確かに美味いといわれるお蕎麦には独特の風味が隠されているのが分かります。栄養価も高くて、ここアメリカでも自然食品や健康食品として人気があります。

 

もともと中国辺りが原産地とされている蕎麦ですが、南カリフォルニアにもカリフォルニア・バックウィートと呼ばれる野生の蕎麦が広く生育しています。海岸地帯から高山の森林限界付近まで、春から夏に白っぽいピンクの小さな花を咲かせて、花が枯れると鮮やかな赤褐色に変わります。枯れた花など本来は綺麗なはずはないのですが、夕日に照らされたりしてさらに明るくきらめいた赤褐色は私にはとても美しく見えてしまうのです。ほとんど一年中は乾燥して枯れ草状態になっているバックウィートの茶色い丘は(春先には緑になります)南カリフォルニアに見られる特徴的なアウトドア風景です。

 

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バックウィートは貴重な食料としてアメリカインディアン達もパンなどに加工して食べていたということですが、それ以上に有効な薬草としても利用されていました。バックウィートの葉は薬草茶として飲まれ、頭痛、胃痛、下痢などに効能がある万能薬だったようです。矢や銃弾などで負傷した時には傷口にバックウィートの根をすりつぶした粉をあてがって治療したとのことです。

 

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バックウィートの花から採れる甘さ控えめのハチミツには抗酸化物質やビタミンが豊富に含まれていて自然食愛好家たちに人気があります。バックウィートの花は一年を通じてほとんど枯れ野原状態になっているこの地帯でも長い間にわたって咲き続けているので、蝶やミツバチたちの生息には欠かせないものとなっています。ただの枯れ草にしか見えない植物が実は人の生活や自然環境に大きな貢献をしていることがわかります。在来種の重要性が再確認されて、以前ご紹介した迷惑千万の外来種ブラックマスタードなどとは対照的です。

 

残念ながら近所の野原に有り余るカリフォルニア・バックウィートの実をたくさん集めて蕎麦粉を作っても日本のようなおいしいお蕎麦は楽しめそうもありません。それでも蕎麦の実を挽いたり打ったりする知識や技術があるならぜひ挑戦したいところです。最近は日本でも輸入物の危ない粉を使ったお蕎麦が多く出回っているようですが、取り敢えずは蕎麦打ち教室などに参加して安心できる美味しいお蕎麦を自分で作れるようになれば嬉しいですよね。

 

英語ですが簡潔で詳しい解説

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霊夢魔理沙(絶妙な会話の駆け引きが最高ですよね)

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カナダグース

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高級アパレル山着

黒い首に顔には白いアクセント、カルガモよりはずっと大型の水鳥です。日本でたくさん見かけることはないようですが、北米ではかなり一般的な水鳥です。 長い首を突き出して忙しく羽を動かし大声をあげて編隊飛行する様子はとても特徴的です。カナダガンとかカナダカモとか呼ばれるこの鳥は高級羽毛服で有名なカナダグースの社名にもなっています。

 

メイドインカナダの高級防寒具メーカーであるカナダグースの商品には20万円以上するダウンジャケットもあって使い倒す登山用にはかなりもったいない気もします。極地探検や犬ぞりレースの防寒具として有名なのですが、登山やスキーでの使用にはデザインが古臭くネットでは流行遅れでダサイという評価もあるようです。同じ羽毛製品で有名なフランスのモンクレールも同様ですが、もともとは厳しいアウトドアのアクティビティで積極的に使用するための商品を開発してきた企業です。ところが今ではセレブご用達のデザイナーブランドのように受け入れられて、街着で自慢する高級ファッションメーカーとなってしまいました。

 

www.canadagoose.jp

 

パタゴニアやノースフェイス、最近ではアークテリクスなども高級アウトドアアパレルとして人気がありますが、ファッションブランドとの違いはやはり山でボロボロになるまで使う人がいるということでしょう。商品開発も販売戦略もあくまでもアウトドア使用にしぼり、けしてファッションブランドというわけではありません。とはいえ、ここカリフォルニアでアークテリクスなどのゴアテックスシェルを購入する人のほとんどが街着やせいぜいスキーリゾートで使用するくらいです。それぞれのアクティビティに特化した高機能の製品がオーバーキル状態(タカラの持ち腐れ)になっています。

 

ゴアテックス製品を一度も使ったことのない人がちょっと寒い小雨の日なんかに800ドルのアークテリクスジャケットを町で着て、このブランドは凄いということになっています。そんな環境ではアマゾンの格安雨具でも大した違いはないのですが、どうやらそういうことで高級アウトドアアパレルブランドが育っていくようです。厳しい登山を想定して開発されコストも上がってしまった商品が「値段が高い、間違いない」と富裕層を捉えてブランド力が増していくようです。中には値段だけが高くて大したことない物も多いのですが。

 

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カナダガンの雛


カナダグースの高級羽毛服にカナダガンのグースダウンが使われていたかは不明ですが、今ではどうやら一般的なダック(アヒル)ダウンに置き換わっているようです。登山用羽毛製品というと、昔は水鳥の胸毛のほんの一部からしか収穫できないホワイトグースダウンがほとんどでした。当時でもそれなりに高価でなかなか手を出せるものではありませんでした。しかも街着で使う人などは皆無、あくまでも極地遠征や厳冬期登山に使用する特別な装備だったのです。

 

現在ではほとんどのアウトドア用羽毛製品が中国製(中国産羽毛)となっていますが、品質の良し悪しは原産地ばかりではなくその処理方法によっても大きな違いが現れてくるとのことです。もちろんフィルパワーやシェル生地、縫製などによっても性能の差がでてきます。手っ取り早い選択方法はやはり値段ということになって、金持ちセレブのように「値段が高い、間違いない」で判断するのが一番なようですね。

 

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憧れの北鎌尾根

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北鎌尾根と高瀬ダム

 

加藤文太郎や松濤明の壮絶な遭難で名が知れた北鎌尾根です。北アルプス槍ヶ岳へ突き上げる急峻な尾根で登山や山歩きをする人には憧れのルートです。まだまだ若い学生時代に当時よく一緒に山に出かけた友人とそのルートをトレースしたことがありました。記録は写真しか残っていませんが、6月になってすぐ、まだ雪が残る季節、登り終えた後は何かベテラン登山者に仲間入りしたような気になりました。

 

現在は上高地から入山して水俣乗越を経由して北鎌沢を登る人が多いようですが、本来、北鎌尾根は末端から登るのが正当な登路でした。末端から登るには大町から高瀬川を経由する長いアプローチをたどる必要があります。「うまくすると工事トラックに乗せてもらえるよ」という友人の憶測に騙されてしまったのですが、当時はあの大規模な高瀬ダムがまだ建設中で確かに多くの工事車両が忙しく働いていました。登山道から眺めた建設中のダムには大岩を積載した巨大なダンプが何台も行き交っていました。遠目に眺める巨大ダンプはオモチャのように見えますが、近寄ればビルディングほどの大きさがあります。さらに一緒に働くパワーショベルはその数倍の大きさがあり、近寄ってその大きさを確かめたくなってしまうのでした。

 

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北鎌沢最後の登り、靴底丸見えの急登。


高瀬ダムは石積みのロックフィルダムです。176メートルの堤高はロックフィルとしては日本一だそうです。建設費にいくら投じたかは調べていませんが、まだ日本経済が元気だった頃で、ダムばかりではなく日本のあちこちの沢筋に多くの堰堤が建設されてきた時代でした。当時は自然破壊、税金の無駄使いと大ヒンシュクを浴びましたが、今なら無意味な緊縮財政と覇権的グローバリズムで受注先はすべて外資、日本には投資利益が一銭も入ってこない状況になっていたかも知れませんね。

 

巨費を投じた高瀬ダムですが、上流より流れ込む堆砂の影響で発電機能に支障が生じてくる様相です。 現在はトラックによる搬出で堆砂に対応していますが、225億円をかけてトンネルとベルトコンベアーで対応する計画が進んでいるとのことです。利水から治水へと目的も変わり、流行りのグリーンエネルギーシステムの問題点が浮き彫りになってしまいました。巨大石油資本は将来グリーンエネルギーシステムが行き詰まることを確信していて、世界が脱炭素に騒いでいる間に石油、天然ガス資源を安価で買いあさり大儲けをしようと目論んでいると考える知識人たちも少なくはないようです。

 

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登りついた槍ヶ岳から穂高連峰の眺め


冬の登攀も考えて北鎌尾根は末端から登らなければと考えていた私達でしたが調べてみるとちょっと面倒、雪渓登りで楽ができそうな北鎌沢を攻めてみることにしました。ところが北鎌沢も容易ではなくて長い長い登りで大変だったことを覚えています。それでも心配だった独標も難なく通過して無事に槍の穂先へ登り着くことができました。何十年も経って覚えているのは長いアプローチに疲れ切って到着した北鎌沢出合での幕営。温かい日差しで草の上に寝転がってウトウト、友人の話が心地よい子守唄になって返事も曖昧になってまぶたが少しづつ閉じていってしまうのでした。

 
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